幽玄の世界で出会ったパレスチナの少年とイスラエルの少年は共に仲良く遊ぶ。
現実では命を奪い合う関係。
どうか会いませんように、と二人は夢の中で友情を固く結ぶ。
■原作・脚本:桜井真樹子
■キャスト・スタッフ
シテ(パレスチナの少年、ダビデ):桜井真樹子
ワキ(イスラエルの少年):吉松章
ドラム:HIKO
サックス:坂田明
デザイン:Diminish Design Partners
協力:菊池創、佐々木和也
制作:マリプラ
■ハイパー能「投石」2023公演概要
●日時:11月11日(土)18:30開場19:00開演
●会場:乃木坂Club CACTUS(東京都港区南青山1-15-18 リーラ乃木坂B1F)
●アクセス:https://www.clubcactus.jp/access.html
●料金:3,000円+1dr
※会員優先予約10/1~、一般発売10/8~
●お問合せ:まきこの会事務局(makikoclub2022@gmail.com / 090-9236-0836)
●ご予約:まきこの会チケットサイト
https://www.sakurai-makiko.com/blank-6/haipano-toseki-2023
●チケットぴあ: Pコード522791
http://ticket.pia.jp/pia/event.ds?eventCd=2339284
●noteに記事を投稿しました。
ガザとイスラエルの一日も早い停戦を望みます ~イスラエル・パレスチナに住む子どもたちの未来に~
https://note.com/sakuraimaklko/n/n74518fb96125
●あらすじ
「エラの丘」はかつてダビデが敵の巨人ゴリアテを飛礫(つぶて)で倒した場所。そこにひとり少年が遊んでいる。今はイスラエル領地となったエラの丘にイスラエルの少年が、彼に声をかけ一緒に遊ぼうと声をかける。イスラエルの少年はその夜、今日出会った少年の夢を見る。彼はダビデの少年の亡霊で、「10 年後、イスラエルの少年がイスラエル兵として、ベツレヘムの難民キャンプで 10 歳の少年に銃を向けた時、それは生まれ変わったぼく、ダビデだ。もし私たちに平和が訪れなければ、ぼくはもう一度、君の眉間を目掛けて石を投げ、きみを倒すだろう」と告げる。イスラエルの少年は、君ともう一度、夢の中でいいから遊ぼうと言うが、夜は明け、ダビデの少年は消えゆき、彼はベツレヘムで生まれ変わった。
パレスチナの少年とイスラエルの少年が幽玄の世界で出会います。少年たちは新しいお友だちができて嬉しいのです。しかし、現実社会はその二人の命を奪い合う関係という運命を定めます。二人は、現実には合わないことを願いつつ夢の中の友情を固く結ぶのでした。
<台本>
●前幕
主人公:パレスチナの少年
脇役:イスラエルの少年
イスラエルの少年:これから向かおうとしている道には、切り立つ岩や砂漠は広がっています。空を見上げれば、そのさらなる漆黒の宇宙を前に空は青く澄んでいて、静かに人間たちを覆っています。
ぼくは、春(テル)の丘(アビブ)で生まれたイスラエルの少年です。両親に連れられて、一緒に安息日(シャバット)を過ごすために、エラの丘の麓に住むおじいさんとおばあさんの家を訪ねます。
ぼくは、過去の歴史を持つエラの遺跡で遊ぼうと思い、オリーブの茂る樹々をかいくぐり、息を弾ませてエラの丘を登ります。
パレスチナの少年:青い空より見下ろすエラの丘。そこにオリーブが麓にむかって川が流れるように茂っています。
積み上げられた遺跡の石壁は、子どもたちの背丈をはるかに越えて高くそびえています。さらに高い天と、この地に、僕はひとり遊んでいます。
ぼくは、この丘に遊ぶ子ども。アーモンドの実を砕いて楽しい時を過ごしています。
あるいは、石投げで使う投石の紐を編み、石を挟んで、樹々の幹を目がけて石を放ちます。木の実が揺れて、驚く鳩が樹々から羽ばたけば、さらに楽しい遊びとなります。楽しい遊びとなります。
イスラエルの少年:何して遊んでいるの?
パレスチナの少年:アーモンドを採って遊んでいるの。
イスラエルの少年:ぼくは10歳
パレスチナの少年:ぼくも10歳
イスラエルの少年:ぼくたち、いい友だちになりそう。
パレスチナの少年:アーモンドを平たい白い石に置いて、砕いて中味を取って食べると、まさに秋の始まる香りがします。ぼくは石を拾って、新しい友だちにあげて言います「一緒にアーモンドの実を砕いて遊ぼう」。
イスラエルの少年:きみの親はどこにいるの?誰一人いない遺跡で、きみはいつも何をしているの?
パレスチナの少年:ぼくは羊を飼っている子ども。木の実を入れた袋、水袋、それから石袋を持って羊を放牧して、杖で羊を先導しているんだ。麻を編んで投石の紐を作って、そこに石を挟んで、動物を目掛けて放つんだ。そうやって羊を飼って守ることが、ぼくの毎日の仕事なんだよ。
イスラエルの少年:でも羊は、どこにいるの?
パレスチナの少年:ぼくのお父さんの羊は、ベツレヘムからエラの丘に連れては戻って放牧していた。しかし、戦争の激しさは日々を追って増してゆくので、羊を置いて、日々の食糧を携えて、兵士に届けるために、再び今日もこの丘を登ってきたんだ。
敵の巨人「ゴリアテ」は、我らの陣に「おれに戦いを挑む者はいないのか!?」と尋ねます。戦いを挑む者は誰一人なく、時は経って行きました。そこでぼくが巨人に戦いを挑みました。五つの石を袋に入れて、投石の紐に一つ目の石を挟んで、巨人の眉間を狙いました。すると石は、巨人の冑(よろい)の隙間の眉間に突き刺さり、巨人はそこに倒れました。そしてぼくは、巨人のもとに駆けつけて、巨人の剣を引き抜いて、巨人の首を突いて、とどめを刺した。
遥かにそよぐ風は神の声
薫る風に神の賛美の言葉を乗せて、再び天に送ります。神のみぞ知る戦いの勝敗は、この世での強い弱いは関係がない。神はダビデを守り、神の喜びの声がそよいでいます。神の行ったこの出来事は世々に語り継がれるでしょう。
●アイ狂言
●後幕
主人公:ダビデ
脇役:イスラエルの少年
イスラエルの少年:安息日(シャバット)の夕べ。蝋燭に火は灯り、ぼくたち家族は祈りを捧げます。晩餐(ばんさん)を、家族と共に囲み、シャバットの歌を歌って過ごしました。星は輝き、楽しく夕べを終えて、眠りにつきます。
ダビデ:夜の月あかりの中、夜(イシャー)の礼拝の呼びかけに人々は、祈りを捧げ、深い眠りにつきます。今夜は、エラの丘で祈りを捧げる最後の夜です。ぼくは再びベツレヘムに生まれ変わります。
満天の星の中に輝く一つは、亡くなった少年。彼は再びベツレヘムに生まれ変わります。巨人「ゴリアテ」を倒した少年「ダビデ」は一千年の時を経て、ベツレヘムの地に預言者「キリスト」として生まれ変わりました。さらに二千年の時を経て今宵の星の一つより同じ故郷のベツレヘムに再びぼくは生まれ変わる。
イスラエルの少年:その物語は、今晩の安息日に読まれたダビデの物語。丘で出会ったきみは誰?
ダビデ:ぼくは羊飼い。神の声を聞き、神の声を人々に伝える者。投石で巨人「ゴリアテ」を倒したけれども、次に生まれてきても、再び現れる巨人に向かって石を投げる決意をし生まれ変わる。
イスラエルの少年:再び現れる巨人って誰?
ダビデ:それはきみだ。今晩より十年後、きみはその時の最新兵器をぼくに向ける。まさにその時、ぼくダビデは、きみの眉間を目掛け、再び石を投げつけるのだ。
イスラエルの少年:何というぼくの運命
ダビデ:巨人「ゴリアテ」の運命は戦争が起こるたびに繰り返される。
とどまるところを知らない移民たちが次々に流れ来て、建国を宣言し、ぼくたちパレスチナ人を巨大破壊兵器で打ち負かしました。銃に追われ、故郷を背にして死から逃れるために家族は歩き続けました。おじいさんは家に鍵をかけて逃げましたが、家は壊されて跡形(あとかた)もありません。難民となって、キャンプに住み始めましたが、イスラエル兵は昼も夜も構わず、ぼくたちに銃を向けてきます。
その難民キャンプに生まれたなら、少年たちは石を拾って、兵士に向かって投げつけます。それこそ、ぼくたち子どもの遊びです。ぼくたち子どもの遊びです。
ダビデ:もしきみは、二十歳になったとき、ぼくたちに平和が訪れていれば、きみはぼくの永遠の夢の友。
イスラエルの少年:ぼくは、きみに石投げのやり方を教わらないまま、エラの丘で別れてしまった。今、石投げをして、どれだけ遠くへ飛ばせるかやってみようよ。
遺された石壁に向かって、堀を越えるほど遠くへ石を投げます。民族の諍(いさか)いも憎しみも争いも越えて、オリーブの樹々の茂るのどかな野原に届きますように。
<少年たちのダンス>
ダビデ:楽しいね、今宵最後のエラの丘。
イスラエルの少年:ぼくたちは、エラの丘の友。
ダビデ+イスラエルの少年:今宵の夢に友だちの契りを交わしました。しかし、時が経てば、お互いに命を奪い合う敵となるでしょう。その運命を知りつつ悲しい友と遊びます。友だちとの夢を共に心にしまうと、明けの明星が輝き、谷の裾野が白んできました。風が立ち起こり、神の迎えが来て、少年ダビデは東の空へ消えました。再び今日の朝、ダビデの故郷ベツレヘムに生まれ変わるために。ダビデは、エラの丘を離れます。エラの丘を離れます。