
桜井真樹子(白拍子、歌)
龍笛を芝祐靖氏に、天台宗大原流声明を中山玄晋に師事。1997年より白拍子の復元を始め「鬢多々良」「水猿曲」「蓬莱山」「廻惚」など20年に渡り公演を続ける。2007年より創作能「マンハッタン翁」「橘の嫗」「岸辺の大臣」「沖縄平家物語」などを発表。2019年よりハイパー能「睡蓮」「投石」「菖蒲冠」「長髄彦」「雪の華」を発表。

吉松章(謡、舞、俳優)
舞台俳優として活動中、喜多流の謡と舞を習う。能楽の謡や舞を現代的に解釈し、ソロ作品化。「マッチ売りの少女」「浦嶋太郎」等がある。シルク ロード能楽会では地謡と後見を、音楽詩劇研究所では、東京、ロシア、アルメニア、カザフスタン、韓国にて、謡と舞を使ったパフォーマンスで参加。 https://musicpoeticdrama.com/home.html

即興ドラマーHIKO(ドラム)
皿洗いのアルバイトをし、散歩をし、絵を描き、たまに人前で暴走族、ダンサー、書道家、格闘家、画 家、楽器奏者らを相方としてドラムを叩いて生きている。

坂田 明 (A.Sax・Cl、voice)
1945年、広島県呉市出身、広島大学水産学科卒業。
1969年上京後「細胞分裂」を結成。1972年~79年山下洋輔トリオに参加、以後「wha-ha-ha」「DA-DA-DA ORCHESTRA」「MITOCHONDRIA」など様々なグループの結成、解体を繰り返しながら、世界のあちこちであれこれしながら今日に至る。東京薬科大学生命科学部客員教授、広島大学大学院生物圏科学研究科客員教授。
公式サイト
■ 作品について
本作品は、桜井真樹子が原作と脚本を手がけた新作であり、彼女によって創作された「ハイパー(超越した)能」の形式で上演される。舞台には、能楽師以外のアーティストやミュージシャンが出演し、従来の枠を超えた表現が試みられている。
本作では、「マンハッタン計画」の責任者であるオッペンハイマーが、名声と栄光という女神と結ばれたことにより、原子爆弾の完成へと導かれた姿を描く。彼は、熱線と放射線という放射能の力によって、広島と長崎の被爆地に生まれた子どもたちの“父”となった。
果たして、オッペンハイマーは何を生み出したのか。彼はその子どもたちに歩み寄ることも、彼らの声に耳を傾けることもなかった。
もはや、発見の喜びに無邪気でいられた学者の時代は終わった。これからの発見の道は、常に自らの良心と向き合いながら進む時代である。知性とは、自然界や人間社会に何を生み出すのか――それを詩的かつ哲学的に描いていく。
■ 桜井真樹子からのメッセージ
2024年8月6日、広島でハイパー能『投石』を上演させていただいた。そして、原爆投下からちょうど80年を迎える2025年8月6日にも、再び広島で公演の場を持たせていただけることになった。
『投石』はパレスチナを題材にした作品であり、パレスチナの少年の面をつけて演じた私に向けられた、広島の観客の熱い眼差しに心が震える思いがした。広島の人々は、遠く離れた地で起きていることを、まるで自分のことのように受けとめ、この8月6日に集まってくれた。
今年は、原爆をテーマにしようと決めた。『原爆の子』(長田新 編、岩波文庫)を読み、特に年少の子どもたちによる感想文に、言葉では表現しきれない思いが伝わってきた。それらが、私の心に最も強く訴えかけてきた。そして、改めて原爆資料館を訪れた。そこで目にしたのは、黒焦げになった3歳ほどの子どもの写真だった。その瞬間、私は「この子を主人公(シテ)にしよう」と心に決めた。
翻ってオッペンハイマーという存在に目を向けたとき、そこには、純粋な知的探究心に突き動かされ、発見を喜ぶ一人の学者の姿があった。人類は知性を使うことを未来と発展のために良しとしてきた。しかし20世紀という時代は、知性を戦争という国家の道具へと変貌させた。知性や技術が、人類の殺戮のために国家に利用されるようになり、学者はただ論文を書き名声を得るだけでは許されない時代に突入した。
知性とは何のためにあるのか?
それは学問のためだけでなく、自分の心に、人々や自然界の命に、深く向き合うためのものではないか?
あなたは持っているのか?
今、その問いがオッペンハイマーの“息子たち”――つまり、あの知性の影響を受けたすべての命たちから投げかけられているように思える。
2025年5月 桜井真樹子
1)8月3日の東京公演では全幕を上演予定。
2)8月6日の広島と8月15日の東京(新代田)はイベントに参加、半能(後シテのみ)を上演予定。
3)8月5日に広島で半能(前シテのみ)の上演を準備中。
2と3については、イベント主催者へ別途お問合せください。X:@GuyOrigin(ガイOrigin of M/GUDON)
■ 開催概要 ハイパー能「オッペンハイマーの息子たち」
原作・脚本:桜井真樹子
出演: 桜井真樹子(シテ:オッペンハイマーの息子)
吉松章(ワキ:オッペンハイマー)
HIKO:ドラム
坂田明:サックス
◆日時・会場・料金・チケット予約
◇8月3日(日) 17:00開場 17:30開演
七針(東京都中央区新川2丁目7-1 オリエンタルビル地下)
全席自由 前売3000円(税込)/当日3500円(税込)
予約:七針 f@ftftftf.com / チケットぴあ(Pコード:534908)
まきこの会チケットサイト https://www.sakurai-makiko.com/information
主催:桜樹座
制作:マリプラ
Graphic Design:Diminish Design Parners
お問合せ
桜樹座(まきこの会事務局): makikoclub2022@gmail.com / 090-9236-0836(担当梅田)
前シテ(前幕)
1930年代、学者たちは、もっと話題を呼んでいた原子核エネルギー、核分裂連鎖の解明を、物理、化学、理論、実験さまざまな角度から研究していた。そんな彼らが原子爆弾を開発する「マンハッタン計画」の名のもとにロスアラモスに集まった。原子核の力は想像を遥かに越えている。原子核というミクロな世界に導く天女に手を引かれ、発見の喜び知る学者。「マンハッタン計画」の責任者、オッペンハイマー。彼は神の与えた計り知れない力を知った。
核分裂は熱線と放射線を生み出す。その能力「放射能」は核開発の学者オッペンハイマーの子ども。しかし、彼は原子爆弾の実験を遥か遠くから密かに覗き見た。
放射能は、父を探す。父はすでにこの世の人ではなかったが、その魂に出会う。
父(オッペンハイマー)「きみはわたしの子どもだ」
息子(放射能)「ではなぜぼくを遠ざけた」
父は放射能の破壊力を誰よりも知っている。一歩ずつ我が子に近づく父。わが子に触れたとき、父の魂は崩壊した。
後シテ(後幕)
もはや魂もなく風のごとくにさまよう学者オッペンハイマー。吹かれるままに、被爆地を訪れる。生きている間、その土を踏むことはなかった。
被爆者の子ども。いつもの朝、彼らの空に原爆は投下された。その閃光、そして熱線にその子は、一瞬のうちに炭となった。
家屋に押しつぶされ炎から逃れられずに身を焼かれた者。水を求めて川に身を沈め命を落とした者。皮膚は着物の袖のように垂れ下がり、腸は帯のように飛び立して苦しむ者。原爆は一瞬のうちに地獄を生み出した。
「オッペンハイマーの風」は、わが子に出会う。
父(オッペンハイマー)「きみを生み出したのは私だ。あなたは私の子どもだ」
息子(原爆の子)「それなら、なぜ広島長崎に来なかったんだ」
父は原爆が惨状を生み出すことを誰よりも知っていた。人が人の姿でなくなること。その被害を受けたわが子に触れたとき、父は黒い雨となった。
炭となった子どもの影のみを残した壁に黒い雨も涙のごとくその跡を残した。
原爆の父は、虚無となったが、いまだその名を残している。